お知らせ

超伝導を強める電子の「隠れた輪」を発見 ― 新しい超伝導材料設計への道筋 ―

発表のポイント

● 電子が集まりやすい特殊な状態が、通常の「点」ではなく「輪(リング)」として広がることを実験と理論の両面から明らかにしました。

● このリング状の電子状態が電子の活動領域(フェルミ準位(注1))に近づくほど、超伝導転移温度が高くなることを見出しました。

● 本成果はより高温で超伝導を実現する材料探索の新たな指針となります。



概要

超伝導などの量子現象は、電子がどのように存在しているかに大きく左右されます。特に電子が特定のエネルギーに集中しやすい「特異点」(サドル点, 図1a)と呼ばれる状態は、超伝導を強める重要な要素として知られています。しかし、これまでその効果は主に2次元的な材料での検証にとどまっており、3次元結晶で同様の強い効果を実現することは難しいと考えられてきました。

東北大学、大阪大学、豊田中央研究所、分子科学研究所、高エネルギー加速器研究機構、沖縄科学技術大学院大学などの共同研究グループは、3次元的な電子構造を持つ超伝導合金Pt(Bi1-xSex)2に着目しました。放射光(注2)を用いた角度分解光電子分光(ARPES)(注3)及び光電子運動量顕微鏡(注4)測定と、合金中の原子置換の乱れを取り込めるコヒーレントポテンシャル近似(CPA)(注5)計算を用い、電子の動きを調べた結果、サドル点が環状につながった特殊な電子状態「サドルループ(輪状特異点)」(図1b)の存在を見出しました。また、サドルループがフェルミ準位に近づく組成ほど、超伝導転移温度が高くなるという相関を明らかにしました。本成果は、これまで主に2次元材料で利用されてきたサドル点の物理を3次元材料へ拡張するものであり、新しい超伝導体や強相関量子材料の探索に向けた設計指針になると期待されます。

本成果は、2026年10月14日、科学誌npj Quantum Materialsに掲載されました。



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図1.
(a) サドル点の模式図。電子バンドが水色の点線に沿って山(凸)、橙色の点線に沿って谷(凹)のようなエネルギー分散を示し、それらが交わる紫色の点がサドル点に対応する。
(b) サドルループの模式図。サドル点が紫色の輪に沿って連なった構造を持つ。



用語説明

注1. フェルミ準位:電子が占有するエネルギーの境界に相当する基準。
注2. 放射光:円形の加速器内を周回運動する数GeV(ギガ電子ボルト)の高いエネルギーを持つ電子が、磁場によって軌道を曲げられたときに発生する指向性の高い電磁波。
注3. 角度分解光電子分光(ARPES):結晶の表面に紫外線を照射して、外部光電効果により結晶外に放出される電子のエネルギーと運動量を同時に測定することで、物質中での電子の状態を観測する実験手法。
注4. 光電子運動量顕微鏡:ARPES装置のうち、光電子を検出する分析器に顕微鏡機能が搭載されたもの。通常のARPES測定に比べ、非常に広い運動量空間の電子状態を一挙に決定したり、電子状態の実空間依存性を観測したりすることが可能になる。
注5. コヒーレントポテンシャル近似(CPA):不規則な原子配列を持つ物質の電子状態を扱うための代表的な理論手法。通常のバンド計算は、原子が周期的に並んでいる結晶を前提とするため、異なる元素がランダムに置換した合金では電子状態の記述が難しくなる。CPAではこのような原子配列の乱れを平均化して取り込み、合金の電子状態を高効率かつ高精度で計算することができる。



論文情報

タイトル:Observation of a saddle-loop van Hove singularity
著者:Y. Morita, K. Nakayama*, N. Ito, T. Kato, T. Nakamura, H. Zhang, X. Tang, T. Lin, K. Yanagizawa, S. Souma, S. Masaki, T. Ikushima, Y. Moriyasu, K. Hagiwara, F. Matsui, K. Tanaka, K. Ozawa, D. Shiga, H. Kumigashira, M. Maeda, Y. Niimi, T. Kida, M. Hagiwara, T. K. Kim, C. Cacho, T. Takahashi, Y. Okada, S. Zhou, T. Koretsune, K. Kudo, T. Sato*
*責任著者: 東北大学大学院理学研究科 助教 中山耕輔
東北大学材料科学高等研究所 教授 佐藤宇史
掲載誌:npj Quantum Materials
DOI:10.1038/s41535-026-00905-4



詳細

□ プレスリリース本文:東北大学ウェブサイトPDF



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東北大学大学院理学研究科物理学専攻[web]
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TEL:022-217-6169
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TEL:022-217-6169
Email:t-sato[at]arpes.phys.tohoku.ac.jp

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Email:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
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