東北大学 大学院理学研究科・理学部

トップ > お知らせ

NEWSお知らせ

ガンマ線バーストの電波偏光を初検出

発表のポイント

● アルマ望遠鏡により、はじめてガンマ線バースト(宇宙最大の爆発現象)の電波残光の偏光の測定に成功

● 結果は、ガンマ線バーストの総エネルギーをさらに大きく考える必要があることを示唆

● 今回確立された観測・解析の手法により、電磁波、重力波、粒子線など複数の観測を協調させる天文学の進展に貢献

□ 東北大学ウェブサイト



概要

台湾・中央大学の浦田裕次氏、東北大学の當真賢二氏、国立天文台の永井洋氏、高橋智子氏らを中心とした国際研究チームは、アルマ望遠鏡を使ってはじめてガンマ線バーストの電波残光の偏光の測定に成功しました。予想よりもはるかに微弱な偏光の検出は、初期宇宙でも発生する宇宙最大の爆発現象であるガンマ線バースト(注1)の総エネルギーをさらに大きくする必要があることを示唆しています。今回、研究チームは、複数の電波望遠鏡を有機的に連携させることで、はじめて電波残光(注2)での偏光の検出に成功し、観測・解析の手法も確立しています。さまざまな種類のガンマ線バーストや類似の突発天体に同じ手法を適用させることで、マルチメッセンジャー天文学(注3)の進展も期待されます。

この観測成果は、Urata, Toma et al. "First Detection of Radio Linear Polarization in a Gamma-Ray Burst Afterglow"として、2019年10月20日発行の天文学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ」に掲載されました。



詳細な説明

台湾・中央大学の浦田裕次氏、東北大学の當真賢二氏、国立天文台の永井洋氏、高橋智子氏らを中心とした国際研究チームは、アルマ望遠鏡を使ってはじめてガンマ線バーストの電波残光の偏光の測定に成功しました。予想よりもはるかに微弱な偏光の検出は、初期宇宙でも発生する宇宙最大の爆発現象であるガンマ線バーストの総エネルギーをさらに大きくする必要があることを示唆しています。今回、研究チームは、複数の電波望遠鏡を有機的に連携させることで、はじめて電波残光での偏光の検出に成功し、観測・解析の手法も確立しています。さまざまな種類のガンマ線バーストや類似の突発天体に同じ手法を適用させることで、マルチメッセンジャー天文学の進展も期待されます。研究チームは、すでに特異な可視光突発天体に同様な観測を実施し、「謎の爆発現象AT2018cowの正体に偏光観測で迫る」[1]の成果をあげています。


20191108.jpg

GRB171205Aと呼ばれるガンマ線バーストは、アメリカ航空宇宙局(NASA)のニール・ゲーレルス・スウィフト衛星によって2017年12月5日に硬X線で検出されました。遠方宇宙(典型的に~100億光年)で発生するガンマ線バーストには珍しく、5億光年と近傍で発生したことが、ヨーロッパ南天天文台・超大型望遠鏡の可視光観測によって確認されました。また、可視光の観測から星の進化の最後におきる超新星爆発が起こっていたことも捉えられています。

研究チームは、ハーバードスミソニアンセンターと台湾・中央研究院が運用するサブミリ波干渉計(SMA)を用いることで、爆発の1.5日後にガンマ線バーストの観測史上で最も明るいサブミリ波残光の検出に成功しました。光の"振動方向の偏り"である偏光を測定するには、高感度のアルマ望遠鏡でも明るい天体が望まれるので、GRB171205Aは、まさに最適なガンマ線バーストでした。すばやくサブミリ波干渉計の観測結果を確認するとで、アルマ望遠鏡の観測を爆発から5日後に実施し、はじめて微弱な偏光の検出に成功しました。一般生活のなかで偏光というのは馴染みがないですが、川や海などを偏光サングラスで見ると水面のキラキラした反射が取り除かれ水の中がクリアによく見えてくることを考えるとわかりやすいでしょう。同じようにガンマ線バーストの電波残光を偏光観測すると、残光を放射している衝撃波の詳細な状態を明らかにできます。とくに偏光なしには測定できない高エネルギー電子の割合を見ることができます。これまでの理論モデルでは、すべての電子が高エネルギーになっていることを想定していましたが、予想よりも微弱な偏光の検出によって、約10%の電子しか高エネルギーになっていないことが示唆されました。この結果は、ガンマ線バーストの爆発の総エネルギーを従来の推定より約10倍も大きくすることになります。

當真氏は、「およそ10年前に電波偏光が微弱になる可能性を自分が理論予測し、それが今回実際に観測されたことに非常に興奮しました。これから他のガンマ線バーストの偏光も測定し、総エネルギーを慎重に推定していきたい」と意欲を燃やしています。

今回の観測は、ガンマ線で輝く時間の長いロング・ガンマ線バーストの種類のなかでも低エネルギーの部類のイベントで測定が行われているので、典型的なエネルギー量のイベントや重力波と同期したショート・ガンマ線バーストにも同様の偏光測定を行うと、多彩な振る舞いを示すガンマ線バーストの理解が飛躍的に進むと期待されます。

ガンマ線バーストのような突発天体の観測には、観測所スタッフのサポートが重要で、本発表にあたり研究チームではSMAとアルマ望遠鏡のスタッフへの謝意を表しています。

この観測成果は、Urata, Toma et al. "First Detection of Radio Linear Polarization in a Gamma-Ray Burst Afterglow"として、2019年10月20日発行の天文学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ」に掲載されました。

また、2019年10月28日から開催された"Yamada Conference LXXI: Gamma-ray Bursts in the Gravitational Wave Era 2019"や2019年11月4日から開催された" Science with the Submillimeter Array: Present and Future"において成果発表がなされました。

この研究を行った研究チームのメンバーは、以下の通りです。
浦田裕次(台湾・中央大学)、當真賢二(東北大学)、黄麗錦(台湾・中原大学)、浅田圭一(台湾・中央研究院)、永井洋(国立天文台/総合研究大学院大学)、高橋智子(合同アルマ観測所/国立天文台/総合研究大学院大学)、パーティパス グレン(米国・ハーバード・スミソニアン天体物理学センター)、田代信(埼玉大学)、山岡和貴(名古屋大学)

この研究は、台湾科技部研究補助金(MoST 105-2112-M-008-013-MY3、MoST106-2119-M-001-027)、日本学術振興会科学研究費補助金(No. 18H01245)および台湾教育部の支援を受けています。



用語解説

(注1)ガンマ線バースト
宇宙最大規模の爆発現象であり、ガンマ線で観測される時間が2秒よりも短いものをショート・ガンマ線バースト、2秒よりも長いものをロング・ガンマ線バーストとおおまかに2種類に分類されている。ショート・ガンマ線バーストは重力波が観測されたGW170817/GRB170817のように中性子星などのコンパクト星の合体現象に由来すると考えられている。重力波観測と協調してショート・ガンマ線バーストの電磁波観測をすること(マルチメッセンジャー天文学)で発生源の性質が調べられる。ロング・ガンマ線バーストは、大質量星の爆発現象であることから、宇宙誕生間もないころに作られる第一世代の星からも発生すると考えられており、初期宇宙を探査する道具としてもさらなる観測が期待されている。

(注2)電波残光
ガンマ線バーストは、ガンマ線を放射した後に電波、赤外線、可視光、紫外線、エックス線にわたる広い波長域で残光を放射する。それは数時間観測されるものから長いもので数年観測されるものまである。これまで可視光の波長域で偏光が検出されていたが、今回初めて、電波の波長域で偏光を検出することに成功した。

(注3)マルチメッセンジャー天文学
電磁波、重力波、ニュートリノ、宇宙線の観測・解析を協調して行って研究をすすめる天文学。



参考ウェブサイト

[1] 謎の爆発現象AT2018cowの正体に偏光観測で迫る



発表論文

雑誌名:The Astrophysical Journal Letters
タイトル:First Detection of Radio Linear Polarization in a Gamma-Ray Burst Afterglow
著者:Yuji Urata, Kenji Toma, Kuiyun Huang, Keiichi Asada, Hiroshi Nagai, Satoko Takahashi, Glen Petitpas, Makoto Tashiro, and Kazutaka Yamaoka
DOI: 10.3847/2041-8213/ab48f3
URL:https://iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8213/ab48f3



問い合わせ先


東北大学 学際科学フロンティア研究所 兼任 理学研究科
准教授 當真 賢二 (とうま けんじ)
E-mail  toma[at]fris.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



お知らせ

FEATURES

先頭へ戻る