本学・地球物理学専攻メンバーが中核を担ってきたJAXAのジオスペース探査衛星ERG (Exploration of energization and Radiation in Geospace)は、2016年12月20日(火) 20時ちょうどに鹿児島県内之浦の宇宙空間観測所から打ち上げられました。予定の軌道に投入されたERG衛星は「あらせ」という愛称が付けられ、遠地点高度が約32,000km、近地点高度が約460kmの楕円軌道で地球を周回しています(図1)。現在は本格運用に向けた初期運用が進められており、搭載機器の電源投入と健全性の確認が順次行われています。
今回、地球物理学専攻のメンバーがその開発に中心的な役割を果たしているプラズマ波動計測器(PWE; 図2)について、観測に不可欠なアンテナの伸展運用が無事完了しました。図3のように衛星「あらせ」からは長さ15mのワイヤアンテナが4組伸びており、2対のダイポールアンテナとして機能します。衛星のスピンによる遠心力を使って真っ直ぐに伸びるワイヤアンテナ(PWE-WPT)は、先端に磁力計(MGF)と磁場センサー(PWE-MSC)が搭載された差し渡し10mのマストとともに、予定通りの長さに到達したことが確認されました。地球の周りで生じる電磁場の精密な観測に向けて、準備が着々と進められています。
□ JAXAによるプレスリリース
<地球物理学専攻ウェブページ>
宇宙プラズマの謎に挑む〜放射線帯の消滅・再形成過程の研究
<当ウェブページ>
地球物理学専攻メンバーが携わっているJAXAのジオスペース観測衛星・ERGが報道公開されました。
打ち上げ迫るERG衛星 −地球物理学専攻メンバーが多数参加−
小野 高幸 名誉教授(元・地球物理学専攻)
元・プロジェクト全体の主任研究者(PI)。2013年の12月にご逝去。後継は、本学出身(地球物理学専攻)の三好由純准教授(名古屋大・宇宙地球環境研究所 准教授)。
笠羽 康正 教授(地球物理学専攻 [惑星大気物理])
本衛星に搭載される PWE(電場・プラズマ波動観測機)の主要メンバー。2015年まで主任研究者。2016年以降、笠原禎也教授(金沢大・電子情報科学専攻)へ交代し、現在は副主任研究者、15m長で衛星から展開される4本のワイヤアンテナ(WPT-S)とDC電場レシーバ(EFD)の責任者、およびオンボードデータ処理部のコア部開発担当。
電場・プラズマ波動観測は、日本の宇宙科学衛星において長年東北大他が担ってきたもので、本学にとっては大家寛 名誉教授、小野 名誉教授の松明を継ぐものでもある。PWEは、2018年打上予定の日欧合同水星探査機BepiColomboに搭載されるPWE(電場・プラズマ波動観測機)の技術を先行して地球周回に展開するもので、欧州宇宙機関(ESA)が2022年に打上予定の木星・氷衛星探査機 JUICE(JUpiter ICy moons Exploler)に搭載されるRPWI(電波・プラズマ波動観測機)にも受け継がれる。(笠羽は、前者の主任研究者、後者の副主任研究者・日本側チーム代表)
熊本 篤志 准教授(地球物理学専攻 [宇宙電磁気])
PWEを構成するHFA(高周波電波レシーバ)の責任者。BepiColombo-PWI・JUICE-RPWIにおける開発担当を兼ねる。
土屋 史紀 助教(惑星プラズマ・大気研究センター [惑星電波観測])
PWE(電波・プラズマ波動観測機)を構成するHFAの開発、特にオンボード・地上データ処理部を担う。JUICE-RPWIにおける開発担当を兼ねる。
加藤 雄人 准教授(地球物理学専攻 [宇宙電磁気])
本衛星に搭載される S-WPIA(ソフトウェア型波動-粒子相互作用解析装置の開発担当、特に大規模数値シミュレーションによる動作原理の開発。主任研究者は、小嶋浩嗣 准教授(京大・生存圏研究所)。
この装置は、PWE など複数機器の観測データをまとめて衛星内で高次処理するもので、この種の「衛星内高度データ処理」は非常に珍しい。ERG衛星は地球の放射線帯を構成する相対論的エネルギー電子の成因を調べることを主目的に据えるが、本装置はその主役となる。
他にも、小原隆博 教授(惑星プラズマ・大気研究センター・センター長)らが高エネルギー粒子観測、坂野井健 准教授(惑星プラズマ・大気研究センター[惑星分光観測])らが地上オーロラ観測などで参加し、グループ総動員でこのミッションを支えていくことになる。