東北大学 大学院理学研究科・理学部

トップ > お知らせ

NEWSお知らせ

大阪北部地震前の大気中ラドン濃度の減少を検出 ~本震前の地震活動静穏化が原因~

発表のポイント

● 2018年大阪北部地震の前に大気中ラドン(注1)濃度が大きく減少

● 本震前後に震源域西側での地震活動静穏化が原因か

● 岩盤に生じる亀裂(割れ目)が大気中のラドン濃度変化に深く関与することを示唆

● 内陸地震前に大気中のラドン濃度が低下することを世界で初めて報告

□ 東北大学ウェブサイト



概要

地震の前には様々な異常が起こることが報告されています。地震前に地殻に存在する放射性元素であるラドン(222Rn)の濃度が増加することもその1つです。これまで、大地震の本震前の前震活動やゆっくりすべり(注2)などで、大気中のラドン濃度が増加することが知られていました。

東北大学大学院理学研究科の長濱裕幸教授、武藤潤准教授らの研究グループは、大阪医科薬科大学、神戸薬科大学と共同で、2018年6月18日の大阪北部地震発生前後に大阪医科薬科大学で観測された大気中ラドン濃度データを詳細に解析しました。その結果、2014年から観測されていた大気中ラドン濃度は、地震の約1年前から減少し、本震後2020年6月まで低いことがわかりました。一方、観測点周辺での地震活動は地震前に比べて減少していました。さらに、本震後の地震活動も、余震域を除く近畿地方全域で低下しており、これが地震後にラドン濃度が増加しなかった原因と考えられます。本研究は、大地震前の静穏化(注3)に伴って、大気中のラドン濃度が低下することを世界に先駆けて明らかにしました。大気中のラドン濃度を用いて、大地震に伴う様々な地殻変動を明らかにできる可能性が得られました。

本研究成果は、2021年4月2日付で「Scientific Reports」にオンライン掲載されました。



詳細な説明

地震の発生の前後において、地中に含まれる放射性元素の1つであるラドン(222Rn)の濃度が異常に変化したという報告がなされています。このような現象は、古くから世界中で報告されており、地震の予測を目指した研究が進められています。しかし、大地震の前にどのような原因でラドン濃度に異常が生じるのかいまだによくわかっていません。

東北大学大学院理学研究科地学専攻断層・地殻力学グループ 長濱裕幸教授、武藤潤准教授、平野光浩(博士課程前期2年、東北大学変動地球共生学卓越大学院プログラム)は、大阪医科薬科大学、神戸薬科大学とともに大気中に含まれるラドンに着目し、ラドン濃度の変化と地震発生との関連性について研究をおこなっています。大気中に存在するラドンは、地中に存在するラドンが散逸したものであり、地震によって岩石や地盤に細かい亀裂(割れ目)ができることによって促進されます。これまでの我々のグループでは、1995年兵庫県南部地震や2011年東北地方太平洋沖地震の前に、大気中のラドン濃度が異常に変化していたことを明らかにしてきました。(https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20210219-11450.html

今回の研究では、2018年大阪北部地震(マグニチュード6.1)の前後で、震源地に近い大阪医科薬科大学で観察された大気中ラドン濃度のデータを詳細に解析しました。2014年から2018年6月18日の本震を含み、2020年までの7年間にわたる大気中のラドン濃度の計測から、本震の約1年前の2017年末頃からラドン濃度は下がり始めたことが明らかになりました(図1)。このラドン濃度の下がった時期は、大阪医科薬科大学周辺の震源地西側(図2の領域1)での地震活動が静穏化した時期に相当します。

我々のグループはこれまでに、1995年兵庫県南部地震、2011年の東北地方太平洋沖地震や和歌山県北部地震の前後の大気中ラドン濃度変動に関して報告してきました。これらの地震では、本震前に、岩盤に微細な亀裂(割れ目)が発生することで、ラドン濃度が増加し、本震後には地震の割れ目が徐々に癒えて閉じることでラドン濃度が減少していく可能性が明らかになりました。大阪北部地震の震源域の東側(図2の領域2)では活発な余震活動が見られたものの、地震後3年間においても大気中ラドン濃度は低いままでした。このことは、大阪北部地震の前に現れた地震活動の静穏化によって、地盤や岩石が変形しなかったため、ラドン濃度が増加しなかったことを意味しています。

今回の研究は、大地震前にラドン濃度が増加するというこれまでの研究とは異なるものでしたが、岩盤に生じる亀裂(割れ目)が大気中のラドン濃度変化に深く関与することを示唆するものです(図3)。大阪医科薬科大学周辺では、大阪北部地震後も、地震活動は低く、ラドン濃度も低いままなので、今後も地殻変動を注視する必要があります。断層・地殻力学グループでは、「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」の支援を受けて全国の研究機関とともに大気中ラドンモニタリングのネットワークの構築を進めています。



論文情報

雑誌名 :Scientific Reports

タイトル:Preseismic atmospheric radon anomaly associated with 2018 Northern Osaka earthquake

著  者:Jun Muto1,*, Yumi Yasuoka2, Nao Miura2, Daichi Iwata1, Hiroyuki Nagahama1, Mitsuhiro Hirano1, Yoshiro Ohmomo3, Takahiro Mukai2,4
責任者
1 東北大学大学院理学研究科 地学専攻
2 神戸薬科大学 放射線管理室
3 大阪医科薬科大学 薬学部 薬学教育研究センター
4 神戸薬科大学 薬品物理化学研究室

DOI  :doi: 10.1038/s41598-021-86777-z



参考図

20210405_10.jpg

図1:2018年大阪北部地震前後で観測された大気中ラドン濃度変動。黒丸は地震前の通常時変動、赤丸が地震前、青丸は地震後の変動を示す。灰色の領域は通常時の変動から計算される3σの変動範囲を示す。


20210405_20.jpg

図2:2018年大阪北部地震前後の震源域周辺の地震活動(上)とその時系列変動(下)。(上)緑色の四角が大気中ラドン濃度の観測点(大阪医科薬科大学)、星が震源を示す。黒丸は通常時の地震活動、赤丸が本震前の地震活動、青丸は余震を示す。ダイヤモンドは本震の震度を示し、灰色は地震観測から推定された断層を示す。(下)観測点周辺の地震活動。灰色は通常時の地震活動から得られた地震数の3シグマ領域を示す。


20210405_30.jpg

図3:地下からのラドンガス散逸を示すイメージ図。大気中のラドン濃度は、地震前後に発生する岩盤の亀裂(割れ目)を通って、ラドン(222Rn)を含むガスが地上に散逸し、放射線管理(RI)施設で計測される。



用語説明

(注1)ラドン
自然界に存在する気体。土壌や大気、水中など、いたるところに存在する。土壌中で生成されたラドンは、一部は土壌の間隙や割れ目を通って大気へ移行し、一部は地下水へ取り込まれる。

(注2)ゆっくりすべり
地下にある断層が地震波を放出せずにゆっくりと動く現象。スロースリップとも呼ぶ。

(注3)地震の静穏化
巨大地震の直前にそれまでの地震発生率が低下する現象。



問い合わせ先


<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科地学専攻
准教授 武藤 潤(むとう じゅん)
E-mail:jun.muto.a3[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
電話:022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



お知らせ

FEATURES

先頭へ戻る