東北大学 大学院理学研究科・理学部

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陸の環境崩壊が顕著な小規模大量絶滅の発見

発表のポイント

● ペルム紀中期末、プリューム火山噴火活動による小規模な大量絶滅(陸上植生崩壊)が起きた。

● ペルム紀末の最大の大量絶滅時に見られるような海洋無酸素事件はなかった。

● 小規模プリューム火山噴火―小規模大量絶滅で、陸と沿岸の動物危機が起こった。

● その理由は、陸の気温変異は海洋表面温度変異の2.2倍だったためと考えられる。



概要

ペルム紀末に最大の動物の大量絶滅が起きましたが、その1000-700万年前のペルム紀中期末にはより小規模の大量絶滅が起きたことが知られています(図1)。原因は、前者がシベリア大規模プリューム火山活動、後者が南中国大規模プリューム火山活動と考えられています。後者の大規模火山活動域は、前者のそれよりずっと小さいものとなっています(溶岩体積比1/4)。東北大学大学院理学研究科地学専攻の海保邦夫教授(現:東北大学名誉教授)らの研究グループは、中国南部にあるペルム紀中期末の大量絶滅を記録した低緯度浅海層から採取した石灰岩や泥岩などの試料から可溶性有機分子を抽出し、質量分析器でそれらの種類と量を分析しました。その結果、その大量絶滅時に高温燃焼事件と土壌流出―陸上植生崩壊事件が起きたことを初めて明らかにしました(図2)。また、元素分析を行った結果、その浅海には動物の生存に必要な酸素が十分にあったことがわかりました。これらの新しい知見は、比較的小さい大規模火山活動が起こした陸上の環境変化は、海洋の環境変化よりも大きかったことを示しています。主要大量絶滅(5大大量絶滅)では、海陸の環境変化が顕著であり、海の動物と陸の四足動物の絶滅規模は同程度です。しかし、この大量絶滅では、気温変異は小規模で、陸の環境―生態系崩壊は顕著に起きたのですが、海の環境―生態系崩壊は小規模です。その理由は、陸の気温変異は海洋表面温度変異の2.2倍だったためです。本研究の成果は、国際誌「Palaeogeography Palaeoclimatology Palaeoecology」に掲載されるのに先立ち、3月28日付電子版に掲載されました。



詳細な説明

地球上に各種の多細胞動物が出現・多様化して以来の過去5億2千万年間で、5回の主要大量絶滅が記録されています(図1)。それらの絶滅規模は、真核動物の種の65%以上にのぼり、地球環境は一変しました。その環境激変と絶滅原因の研究が世界中で活発に行なわれています。海保教授らは、2016年から2022年の間に、5大大量絶滅の原因と経緯を特定する研究を国際誌に発表しました。今回は、より小規模の大量絶滅の研究を同様の方法で試みました。研究対象は、2億5900万年前のペルム紀中期末グアダルピアン期ーローピンジアン期境界で起きた生物危機です。この大量絶滅も入れて6大大量絶滅とする研究者もいますが、最近のより詳細なデータ解析によると、この大量絶滅における海の動物の絶滅規模は比較的小さいと考えられています。

堆積有機分子(注1)分析の結果、有機物高温燃焼で生成されるコロネン(注2)と土壌流出の指標のジベンゾフランのスパイクを、この時代では初めて発見しました(図2)。元素分析により、海洋無酸素状態の指標のモリブデンが閾値以下の量で酸素が海水中に十分あることもわかりました。これらの証拠から我々は、「陸環境変化優勢」と解釈しました。有機物高温燃焼と今回測定した水銀量の多さは、大規模火山活動の発生を示し、その多数の噴火により放出されたガスが気候変動と環境悪化を起こしたと考えられます。ペルム紀末の主要大量絶滅でも陸では高温燃焼事件と土壌流出事件が起き、より大きな絶滅規模を記録していますが、ペルム紀中期末と異なり海洋は広く無酸素化しました。他地域のデータも参考にすると、ペルム紀中期末では海洋の酸素環境は概して良好のようです。

海より陸の生態系崩壊が顕著だった理由は、火山エアロゾル量が少ないと海洋の温度が十分に大きくは変わらないためと考えられます。陸上の気温変化は海洋表面温度変化の2.2倍あるからです。それに対して主要大量絶滅ではエアロゾル量が多いため、陸ばかりでなく海洋の温度変化も動物を絶滅させる温度変異だったことが、海陸の動物の絶滅規模の差異の理由と考えられます。



本研究の意義と今後の展望

皆、大きいものに注目しますが、小さいものも役に立ちます。本研究の意義は、主要大量絶滅とは異なる小規模大量絶滅の特徴が見えたことです。過去の大量絶滅と人新世の絶滅の原因には共通性があり、小規模の大量絶滅は人為的に起きる可能性があるので、今回の研究成果は人類社会にとっても参考になります(https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20221124-12371.html)。



論文情報

雑誌名: Palaeogeography Palaeoclimatology Palaeoecology
論文タイトル:High-temperature combustion event spanning the Guadalupian−Lopingian boundary terminated by soil erosion
著者:Kunio Kaiho, Stephen E. Grasby, Zhong-Qiang Chen
URL:https://doi.org/10.1016/j.palaeo.2023.111518



参考図

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図1:過去の大量絶滅との絶滅規模の比較。青棒:海の動物。赤棒:陸の四足動物。1-5は5大大量絶滅。動物のシルエットは当時の代表的動物。end-O:オルドビス紀末。F-F:フラスニアンーファメニアン境界。End-G: ペルム紀末。end-P: ペルム紀末。end-T: 三畳紀末。J-K: ジュラ紀―白亜紀境界。 K-Pg: 白亜紀―古第三紀境界。原因:大規模火山活動(火山マーク):end-O?, F-F, end-G, end-P, end-T; 巨大隕石衝突(星マーク):J-K, K-Pg. 横軸の数字:たとえば 444 は4億4400万年前。(©海保邦夫)


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図2:ペルム紀中期大量絶滅の原因:陸上大規模火山活動による小規模大量絶滅。大規模火山は南中国の小大陸にあった。絶滅率が高い動物:陸上四足動物、多細胞動物礁,フズリナ(単細胞動物);陸と沿岸の動物(©海保邦夫)



用語の説明

(注1) 堆積有機分子
生物が死後に堆積物中に残す有機分子と燃焼と熟成により生成する芳香族炭化水素の総称。前者は安定な形に変化して保存されることが多い。堆積岩から抽出し分析して、分子の種類と量を知る。

(注2) コロネン
普通の堆積岩に含まれる割合はわずかである。生成に高温が必要なため、平均的な森林火災の温度より高い温度(>1200 ℃)が必要。



問い合わせ先

東北大学名誉教授
海保 邦夫(かいほ くにお)
電話:022-394-3931
E-mail:kunio.kaiho.a6[at]tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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