東北大学 大学院理学研究科・理学部

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太古の地球の歴史が語る:
化石燃料消費による炭素循環の乱れと大量絶滅

発表のポイント

● 約2.5億年前の化石燃料の高温燃焼記録の復元

● 高温燃焼記録から当時の炭素循環を復元

● 化石燃料燃焼が当時の炭素循環の乱れと生物多様性低下の原因

□ 山口大学ウェブサイト



概要

5大大量絶滅の3回目にあたる約2億5千万年前のペルム紀末の大量絶滅は地球生命史史上最大の絶滅で、90%以上の種が絶滅しました。その後の時代である前期三畳紀においても生物の多様性は回復せず、500万年〜1000万年後にようやく生物多様性が回復しました。この間、炭素循環が非常に不安定で、大気・海洋環境が非常に不安定であったことが分かっています(参考図1)。この異常に長引いた生物多様性の遅れと不安定な炭素循環の原因として、ペルム紀末大量絶滅の原因と考えられている大規模火山活動が、前期三畳紀の間にも繰り返し発生し、生物・環境の回復を妨げていたという仮説があります。

山口大学創成科学研究科の齊藤諒介助教らの研究グループは、この仮説を検証するために、下部-中部三畳系の堆積岩を用いて、高温燃焼の際に生成される有機分子、コロネンの記録を復元しました。その結果、高温燃焼による大気・海洋への急激な炭素の注入と海洋動物多様性の減少が同時的に繰り返されたことを明らかにしました(参考図2)。高温燃焼は通常の森林火災では起こらず、マグマが石油・石炭などの化石燃料が豊富な地層に貫入した際に発生し、大量のコロネンが生成されます(参考図1パネルB)。

さらに、復元した高温燃焼記録に基づき、炭素循環モデルに対して化石燃料消費量を炭素循環の摂動として与えることで、当時の炭素循環の乱れを再現することに成功しました。炭素循環は大気・海洋の炭素収支を示すものです。安定時には収支は供給と消費が釣り合って±0です。今回復元された炭素循環からは、地質学的に短時間で、消費を大きく上回る炭素供給(千年あたり最大100✕1015mol・C)が当時の炭素循環を再現するために必要なことが分かりました(参考図2)。大気・海洋へのこのような急激な炭素の注入は、地球表層環境が持つ緩和能力を超え、急激な環境変動をもたらし、生態系へ大きな被害を与えます(参考図3)。

本研究の成果は、地球惑星科学のトップジャーナルである「Earth and Planetary Science Letters」に掲載されるのに先立ち、5月17日に電子版へ掲載されました。

※単純比較はできませんが2022年の化石燃料消費等による炭素供給速度(千年あたり約800✕1015mol・C)と比較すると約12%となります。



詳細な説明

ペルム紀末大量絶滅は地球上の多くの生物種が6万年ほどの期間内で急激に消滅し、海洋・陸上ともに生態系が崩壊しました。この絶滅イベントの原因には、多くの仮説が提唱されていますが、シベリアにおける大規模火山活動が根源的な原因として有力視されています。この大規模火山活動は体積にして~300万km3 (富士山7500個分)、面積にして250万~km2 (日本列島7つ分)もの大きさです。加えて、この火山活動が発生したシベリアには大量の石油や石炭などの化石燃料を含んだ地層が存在していました。大規模火山活動に伴うマグマのこれらの地層への貫入により、化石燃料が高温燃焼し、二酸化炭素などの温室効果ガスやハロゲンなどの有害ガスが環境中に大量に放出されて当時の生態系に甚大な被害を広域的にもたらしたことが先行研究により報告されてきました【例えば共著者の東北大の海保名誉教授らの複数の地域を対象にした報告:(https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20201109-11270.html)や著者らの高時間解像度で解析した報告(https://www.yamaguchi-u.ac.jp/weekly/22644/index.html)】。

ペルム紀末大量絶滅後の前期三畳紀は期間にして約5百万年ありましたが、生物の多様性はこの間に回復しませんでした。山口大学創成科学研究科の齊藤諒介助教らの研究グループ(東北大、中国地質大学、名古屋大学などの研究者を含む)は、前期三畳紀における大規模火山活動による生物多様性への影響を調べるため、下部-中部三畳系の堆積岩を中国の地層から採取し、地層中に含まれる多環式芳香族炭化水素(PAHs)の分析をガスクロマトグラフ質量分析計を用いて行い、火山活動に起因する高温燃焼について復元しました。そして、得られた高温燃焼記録を元に、化石燃料消費量を炭素循環モデルに摂動として与えることで、当時の炭素循環のシミュレーションを行い、高温燃焼が大気・海洋環境へ与えた影響の評価を行いました。

今回ターゲットとしたPAHsは、地質年代を通じて十億年以上保存される非常に安定的な有機分子です。現代においてPAHsは、有機物質の燃焼によって生成します。自然界におけるPAHsの起源は主に、森林火災などの野火による燃焼です。しかし、火山活動や小惑星衝突による化石燃料などの有機物を大量に含んだ地層の加熱によっても生成されます。PAHsの中でもコロネン(参考図1)は、後者によるPAHs生成の指標として地質学では活用されてきました。

今回、下部-中部三畳系の堆積岩から検出されたコロネンを含むPAHsの分布を調べたところ、前期三畳紀では火山活動に起因する大規模高温燃焼が頻発していることが明らかになりました。一方で、生物回復が起こる中期三畳紀ではほとんど発生していないことがわかりました。このことは頻発する高温燃焼が生物多様性の回復を抑制していたことを示唆しています。さらに、高温燃焼記録に基づいて復元した炭素循環から、高温燃焼が当時の炭素循環の乱れの原因であることが考えられます。このことは、高温燃焼が大気・海洋環境を不安定(温暖化、酸性化、海洋無酸素化などの環境悪化)にしていたことを示しており、生物多様性抑制の原因であることをさらに強く示唆します。

「繰り返される火山活動説」は先行研究で提唱されていたものですが、この研究では初めて、火山活動による高温燃焼記録を復元し、そして、その高温燃焼記録が当時の炭素循環の乱れを復元できることを明らかにしました。大規模火山活動は地球生命史ではしばしば原因として提唱されていますが、この研究は化石燃料の高温燃焼が生物多様性・炭素循環に与える影響の重要性について強調するものです。



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参考図1:本研究で明らかにした約2.5億年前の炭素循環(※1)の乱れ。
パネルA(ペルム紀末大量絶滅前):地球表層(大気・海洋)環境において炭素の供給と消費が釣り合っている状態。
パネルB(ペルム紀末大量絶滅-前期三畳紀):地球表層環境において炭素の供給が消費を上回っている状態。大規模火山活動によるマグマが化石燃料の存在する地層を貫き、燃焼させ、大量の炭素を大気・海洋に供給(※2)。

※1:炭素は大気・海洋を循環する。火成活動によるCO2脱ガス、風化(有機物と岩石)によるCO2放出とHCO3-の溶脱。これら火成活動と風化によって放出・溶脱された炭素は、光合成および石灰化生物(サンゴ・貝・有孔虫など)によって固定され、海底下へ埋没することで除去される。海底下へ埋没した有機・無機炭素はプレートテクトニクスによる海洋プレートの大陸地殻下への沈み込みに伴って加熱・分解され、火成活動によって再び大気・海洋へ放出される。
※2:高温燃焼起源有機物(コロネン)の記録から燃焼時期を推測。本図は鎌田(2020)をもとに作成。


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参考図2:本研究で推測した約2.5億年前の化石燃料の消費量と復元した炭素循環、海洋表層水温度、生物多様性。
パネルA:高温燃焼起源有機物(コロネン)と炭酸塩炭素同位体比記録から推測した化石燃料消費量。
パネルB:化石燃料消費量などに基づいて復元した炭酸塩炭素同位体比(※)と実際の地質記録比較。
パネルC:海洋動物(コノドントおよびアンモノイド)の多様性。
※:炭酸塩炭素同位体比は炭素循環の指標。この図の炭酸塩炭素同位体比の実測データのように、炭酸塩炭素同位体比の値が大きく変動している時代は、炭素循環が乱れていたことを示している。
Bの地質記録はZhang et al. (2019)、CはSun et al. (2012)に基づく。


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参考図3:化石燃料消費速度の違いによる炭素循環の応答。
パネルA,C,E:急激な化石燃料消費(A)による炭素循環の乱れ(C)と大気二酸化炭素濃度比(E)。
パネルB,D,F:ゆっくりとした化石燃料消費(B)による炭素循環の乱れ(D)と大気二酸化炭素濃度比(F)。化石燃料は同位体的により軽い12Cから構成されているため、化石燃料消費は地球表層に多くの12Cを供給し、結果、地球表層の13C/12C比は減少する(CとDのδ13Cの負のシフト)。ケース1のように消費速度が大きい場合には、炭素循環の乱れも大きく(C)、また、大気二酸化炭素濃度の上昇幅も急激で大きいことに注目(E)。大気二酸化炭素濃度比は初期濃度に対する上昇後の濃度の比。本図はPayne & Kump (2007)の炭素循環モデルを利用してシミュレーションを行ったもの。


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参考図4:pCO2(大気二酸化炭素分圧)増加に対する陸上・海洋における緩和過程。高いpCO2は温暖化をもたらし、温暖化は陸上風化を強化する。風化の強化は風化によるCO2の消費量を増大させるとともに、海洋への栄養塩供給を強化し、それにより一次生産性が高まる。一次生産性の高まりは海洋の無酸素化を引き起こし、それによってリン(一次生産性を高める栄養)の再生産を促進し、それがまた一次生産性を高める。海洋無酸素によって有機物の埋没量が上昇し、生産された有機物が分解されずに埋没するので(※)、pCO2が減少する。このようにして急激なpCO2の増加は緩和される。
※光合成はCO2を消費して有機物を生産するが、その有機物が分解されるとCO2が放出される。したがって、生産された有機物が分解されずに埋没するとCO2が除去されることになる。



論文情報

雑誌名Earth and Planetary Science Letters
論文タイトル:Frequent high-temperature volcanic combustion events delayed biotic recovery after the end-Permian mass extinction
著者: 齊藤諒介1,2,3*, 海保邦夫3, 田力4, 高橋聡5
(*責任著者, 1山口大学, 2JSTさきがけ, 3東北大学, 4中国地質大学, 5名古屋大学)
公表日:2023年5月17日(オンライン公開)
DOI: https://doi.org/10.1016/j.epsl.2023.118194



問い合わせ先

<研究に関すること> 山口大学大学院創成科学研究科理学系学域
助教 齊藤 諒介(さいとう りょうすけ)
E-mail: saitor[at]yamaguchi-u.ac.jp

東北大学名誉教授
海保 邦夫(かいほ くにお)
E-mail:kunio.kaiho.a6[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
山口大学総務企画部総務課広報室
電話: 083-933-5007
E-mail: sh011[at]yamaguchi-u.ac.jp
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