東北大学 大学院理学研究科・理学部

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火山活動による地球寒冷化が恐竜の繁栄を導いた? 三畳紀末の大量絶滅の実態を解明

発表のポイント

● 大規模火山活動による堆積岩の加熱温度の変化が気候変動に影響したことを明らかにした。

● 低温加熱による多量の二酸化硫黄ガス放出が、成層圏の硫酸エアロゾルを増加させ、太陽光を反射して、寒冷化を引き起こした。

● 寒冷化が三畳紀に繁栄したワニの先祖を絶滅させ、ジュラ紀以降の恐竜の大繁栄の引き金となった。

□ 東北大学ウェブサイト



概要

5大大量絶滅の4回目にあたる約2億年前の三畳紀末の大量絶滅を境に、それまで繁栄していたワニの先祖の大型爬虫類が絶滅し、恐竜の多様化が始まりました(図1)。それまで小さく地味だった三畳紀の恐竜は三畳紀末の大量絶滅以後に急速に大型化して、ジュラ紀以降の繁栄につながりました。

この大量絶滅の原因は、超大陸パンゲアの分裂を引き起こした大規模火山活動であると考えられていました(図2)。しかし、火山活動がどのように環境変動を引き起こしたかは不明でした。

東北大学大学院理学研究科地学専攻の海保邦夫教授(現:東北大学名誉教授)らの研究グループは、堆積岩の加熱実験を行い、比較的低い温度では二酸化硫黄が、高い温度では二酸化炭素がより多く放出されることを明らかにしました(図3)。さらに、大量絶滅を記録した地層から発見した加熱温度に制御されて生成する堆積有機分子(注1)の種類の変化から、火山活動が低温から高温へ移行したと推定しました。以上の結果から、三畳紀末の大量絶滅は次のプロセスで起きたことを提唱しました(図1):

● 大規模火山活動のマグマが、比較的低温で堆積岩を加熱した結果、大量の二酸化硫黄が生成された。

● 二酸化硫黄が成層圏に入り、硫酸エアロゾルを形成した。

● 硫酸エアロゾルが太陽光を反射し、光合成阻害や地球寒冷化などにより生物の大量絶滅が起こった。

本研究の成果は、国際誌 「Earth and Planetary Science Letters」に掲載されるのに先立ち、1月12日付電子版に掲載されました。 編集者により重要と判断され、特別早く出版されることになりました。



詳細な説明

東北大学大学院理学研究科地学専攻の海保邦夫教授(現:東北大学名誉教授))、山口大学大学院創成科学研究科理学系学域地球科学分野の齊藤諒介助教、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻の池田昌之准教授、高橋聡助教らの研究グループ(スウェーデン、米国などの研究者を含む)は、三畳紀末の堆積岩をオーストリアと英国の地層(図2)から採取し、堆積有機分子や水銀などの分析を行いました。三畳紀末の大量絶滅開始時には、高温で生成する6個のベンゼン環が環状に縮合した芳香族炭化水素のコロネン(注2)は少なく、より低い温度で生成する5環の芳香族炭化水素(ベンゾe-ピレンやベンゾghi-ペリレン(注3)など)が(火山起源を示す)水銀の濃集と同時期に多く生成され、その後、コロネンが増加しました(加熱温度の上昇を示す)。一方、カキ化石の酸素同位体比から、大量絶滅時に寒冷化が起き、その後に温暖化が起きたことが推定されていました。そこで、堆積岩の加熱実験を行い、発生するガスの種類と量を質量分析器で測定しました。その結果、二酸化硫黄は比較的低い温度(350-550°C/100 年加熱(注4))で、二酸化炭素はより高い温度で多く放出されることがわかりました(図3)。以上の結果から、大規模火山活動のマグマのシル(注5)と堆積岩の接触変成による比較的低温の加熱で大量の二酸化硫黄が生成されたと考えられます。二酸化硫黄は、成層圏に入り硫酸エアロゾルになって、太陽光を反射し、寒冷化します。この仮説を気候モデルの計算結果と比較することにより、寒冷化を定量的に示し、大量絶滅に至ったと論じました(図1)。その後、火山活動と堆積岩の高温加熱により、大気CO2濃度が増加して温暖化したと考えられます。

白亜紀末に恐竜が絶滅して、新生代に哺乳類が繁栄したのと同様に、三畳紀に繁栄したワニの先祖が絶滅し、生き残った恐竜がジュラ紀から白亜紀に大繁栄したと考えられます。また、陸上植生崩壊と土壌流出事件が絶滅時に大噴火と同時に起きたことも捉えました(図1)。



本研究の意義と今後の展望

2度目(後期デボン紀)と3度目(ペルム紀末)の大量絶滅時では、高温で生成する6環の芳香族炭化水素のコロネンと、火山噴火と土壌流出で供給される水銀の同時濃集が確認され、高温の大規模火山活動がこれらの大量絶滅の要因と考えられていました。今回4度目の三畳紀末の大量絶滅期を調べた結果、その初期はコロネンは少なく、より低い温度で生成する5環の芳香族炭化水素が多く生成されたことがわかりました。今回の加熱実験により、2、3度目の大量絶滅に伴う地球温暖化と4度目の大量絶滅の寒冷化とその後の温暖化の理由を説明できました。1度目(オルドビス紀末)の大量絶滅についても同様の研究を進めれば、5大大量絶滅の発生原因と気候変動のカラクリが総合的に説明されるでしょう。同手法による発表済みの研究のプレスリリースは、2度目の後期デボン紀大量絶滅(https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20210222-11459.html)、3度目のペルム紀末大量絶滅(https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20201109-11270.html)、5度目の白亜紀末大量絶滅(https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2016/07/press20160714-01.html)についてです。

論文情報

雑誌名: Earth and Planetary Science Letters
論文タイトル: Volcanic temperature changes modulated volatile release and climate fluctuations at the end-Triassic mass extinction
著者: Kunio Kaihoa*, Daisuke Tanakaa, Sylvain Richozbb, David S. Jonesc, Ryosuke Saitod, Daichi Kameyamaa, Masayuki Ikedae, Satoshi Takahashie, Md. Aftabuzzamana, Megumu Fujibayashif (*責任著者, a東北大学, b Lund大学[スウェーデン], cAmherst大学[米国], d山口大学, e東京大学, f秋田県立大学)
URL:https://doi.org/10.1016/j.epsl.2021.117364
https://authors.elsevier.com/a/1ePF2,Ig4NVo0:2022年3月3日までは、このURLからどなたでも無料で入手できます。



用語の説明

(注1) 堆積有機分子
生物が死後に堆積物中に残す有機分子と燃焼と熟成により生成する芳香族炭化水素の総称。前者は、安定な形に変化して保存されることが多い。粉末化した堆積岩から有機溶媒で抽出し、質量分析器により分子レベルで定量できる。

(注2) コロネン:20220113_100.png
普通の堆積岩には含まれる割合は小さい。生成に高温が必要なため。平均的な森林火災の温度より高い温度が必要となる。石油の不完全燃焼ではできず、もっと高温になる必要がある。

(注3) ベンゾe-ピレン ベンゾghi-ペリレン:20220113_200.png
コロネンより低い温度で生成する。石油の不完全燃焼でたくさんできる。低温のマグマによる有機物加熱で多くできる。

(注4) 100 年加熱
シル(注5)を想定した加熱時間。

(注5) シル
板状の火成岩体で、その周囲にある地層の層理面や変成岩の面構造に平行に貫入しているもの。 一般的にほぼ水平かやや傾斜した岩体のものが多い(日本大百科全書[ニッポニカ])。

(注6) コロネン指標
コロネン/(コロネン + ベンゾe-ピレン + ベンゾghi-ペリレン) 加熱温度が高いと高い値になる。平常時に堆積した岩石中の値は0.2以下。大規模プリューム火山活動や小天体衝突により堆積岩が高温加熱を受けると0.2以上の値になる。高く放出されて成層圏に入ることで、地球全体に広がり堆積する。



参考図

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図1:三畳紀末大量絶滅の原因:地球寒冷化によりワニ系列の大型爬虫類は絶滅し、恐竜は生き延びて大型化し、生態系の頂点に君臨した。大規模火山地域は中央大西洋地域(図2)。(© Kunio Kaiho)

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図2:2億年前(大西洋が開く前)の古地理図と三畳紀末大量絶滅の原因の中央大西洋大規模火山地域、および研究地点(赤のバツ印)の場所(現在のオーストリアと英国)。

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図3:加熱温度と発生ガスとコロネン指標の関係。加熱温度が発生するガスの種類と量を決め、それらが気候変動を決めることを示した図。ガス量は積算なので増加時に放出している。コロネン指標(注6)は加熱温度の指標。四角の点は石灰岩を加熱した場合、丸印の点は泥岩を加熱した場合。縦軸は相対量。(© Kunio Kaiho ※転載不可)



問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学名誉教授(元 理学研究科地学専攻)
海保 邦夫(かいほ くにお)
電話: 022-394-3931
E-mail: kunio.kaiho.a6[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
電話: 022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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