お知らせ
- トップ
- お知らせ
最大の大量絶滅の原因は?:水銀同位体比から新たな証拠
発表のポイント
● 地球の3地域の2種類の水銀同位体比値(注1)をクロスプロットした際、3回の絶滅時においてのみ、その分布が火山起源と陸域泥起源の値を結ぶ線上に収束し、相関を示した。
● その3回の絶滅イベントは、火山噴火、高温燃焼、土壌流出(注2)と同時期に発生していた。
● 2種類の水銀同位体比値の相関係数と火山噴火を示す水銀量の間には、極めて強い相関が認められた。
● 本研究により「火山活動→光合成停止→植生崩壊→土壌流出→大量絶滅」という一連のシナリオが導き出された。
概要
顕生代最大のペルム紀末(約2億5千万年前)大量絶滅は、シベリアトラップ火山活動(注3)が原因であるとされていますが、その証拠は火山噴火が主な供給源である水銀(Hg)の絶滅層準(注4)での濃集です。海保邦夫名誉教授らの国際研究グループは、世界の3つの地域の2種類の水銀同位体比 (質量依存:δ202Hgと質量非依存:Δ199Hg)が絶滅を記録している3層準でのみ平常時には認められない顕著な負の相関を初めて見出し、(図1, 2)、3回の絶滅のうち最大の絶滅の層準で相関が最も高いことを発見しました。その相関の意味は、δ202HgとΔ199Hgを両軸とした平面上の分布が、火山起源と陸域泥岩起源の値を結ぶ線上に収束しているということです。さらにその相関と火山噴火を示す水銀の背景量に対する量比との間には非常に高い相関R = -0.97が認められました(図3)。海保名誉教授は、火山起源の水銀が世界中にばらまかれ、成層圏に入った二酸化硫黄ガスが硫酸となり太陽光を反射し寒冷化が起き、その後、光合成の停止・陸上植生崩壊・土壌流出が起きて、火山起源の水銀と陸上泥の水銀が混ざったために、この収束を示したと解釈しました。本論文は、Nature Communicationsに7月28日に掲載されました。
詳細な説明
研究の背景
ペルム紀-三畳紀大量絶滅は、顕生代最大規模の大量絶滅であり、広くシベリア・トラップ火山活動と関連づけられています。その生物多様性危機は、陸上植生崩壊と小規模の海の動物の絶滅(EPTD)―海の大規模絶滅(EPE)―2度目の海の動物の絶滅(eTE)の3段階で起きました。約90%の動物の種が絶滅し、海では古生代型から現代型の動物相へ変化しました。陸上では爬虫類と単弓類の多くが絶滅し、後に恐竜と哺乳類が出現します。水銀は火山から主に供給され、水銀(Hg)同位体から水銀の供給源を推定する研究が盛んです。しかし、絶滅3段階に対する水銀(Hg)同位体の応答は解明されていません。
研究成果の説明
海保邦夫名誉教授らの国際研究グループは、シベリアトラップ火山区から当時1万キロメートル南東にあった地点(南中国大陸の東と西)と7千キロメートル南にあった地点の浅海堆積岩の地層から(図1)質量依存と質量非依存の水銀同位体比を報告しました(図2)。これらをまとめると、平常時には認められないδ202HgとΔ199Hgの顕著な負の相関が約15万年間にわたる3つの火山活動―環境変動―生物危機区間にのみ出現したことを発見しました(図2)。複数のセクションにおいて、絶滅区間の試料は陸域泥源、火山起源の各供給源領域へ収束する一方、平常時試料はより分散しており、異なる同位体挙動を示しました。背景値で規格化したHg/全有機炭素比は、δ202HgとΔ199Hg関係と強く相関し(R = -0.97)、水銀負荷量と同位体システムとの関連を示しています(図3)。これらの結果は、これまで認識されていなかった同位体構造を明らかにし、絶滅区間における大規模供給源支配の強化を示唆するとともに、噴火パルスの解明および火山活動駆動型環境変動の追跡のための新たな枠組みを提供します。
火山から大気へ放出された水銀が受けた経緯により(たとえば、太陽光を受ける/受けない、生物に取り込まれる/取り込まれない、海洋の表層の無酸素還元状態を経験する/しない)、2種類の水銀の同位体比がそれぞれ特有の値へ変わります。同じ値に収束するということは、地球規模で、同じ由来の水銀が世界中に拡散したことを意味します。土壌由来の水銀の量は場所と時間により変わりますから、2種類の水銀の同位体比値を横軸と縦軸にしてプロットすると、火山噴火の水銀同位体比値と土壌由来の水銀同位体比値の間に分布するので、両者を結ぶ直線に値が収束したわけです (図1b, d, f)。絶滅を記録した地層のみに、このような水銀同位体比の収束がはじめて認められました。この発見が意味することは、「シベリアの大規模火山噴火により放出された二酸化硫黄ガスが成層圏に入り地球を取り巻き、硫酸エアロゾルになって太陽光を遮断し、地球寒冷化を起こし、世界中の陸上植物が死滅し、大量の土壌が海へ流出し、同時に放出された二酸化炭素が地球温暖化を起こし、大量絶滅につながった」ということです。3回の火山噴火は、水銀量とコロネン量のピークにより証拠付けしました。つまり、シベリアの大規模火山噴火が激しかった期間が約15万年間に3回あり(2回目が最大規模)、放出火山ガスによる急激な気候変動により陸上生態系の崩壊と海中生態系の崩壊が起きたのです。
6月に公表された海保名誉教授らの別の論文では、白亜紀末恐竜絶滅時の2種類の水銀同位体比は、地球の3カ所の小惑星衝突層で同じ値に収束していることを発見しました(https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20260507-14241.html)。それに対して、今回のペルム紀末の最大の大量絶滅時の2種類の水銀同位体比は、南中国の東西とイタリアの3カ所の火山噴火事件の3層準で、2つの値を結ぶ線上に収束していることを発見しました。大規模火山噴火は長期事件のため、火山と土壌の2点間に収束する可能性があります。火山噴火から土壌流出への過程を、数百年おきの火山噴火により何度も繰り返すので、岩石試料の場所と時間により火山起源水銀と土壌起源水銀の混合比が変わりうるからです。
さらに、3回の水銀同位体比の収束は火山噴火・高温燃焼・土壌流出(注3)が同時であったため、火山活動→光合成停止→植生崩壊→土壌流出→大量絶滅というシナリオを描くことができました。
本研究の意義と今後の展望
今回の水銀同位体比収束の発見の意義は、3回の収束が3回の火山噴火・土壌流出と同時に起きているため、水銀同位体比の収束が地球規模の気候変化と植生崩壊を起こす大規模火山活動を捉える手法になり得るということです。5月に公表した先の論文では、白亜紀末(約6千万年前)大量絶滅について論じました。小惑星衝突時、世界の3地点の水銀同位体比(δ202HgとΔ199Hg)の値が衝突場所のシェールガス起源水銀と火山起源の中間値に収束しました。これは衝突による堆積岩起源水銀の大気放出と火山噴火が同時的に発生し、双方が地球規模で沈着したことを示唆しています。一方、今回のペルム紀末の絶滅時の水銀同位体比は、Δ199Hgがより低い火山起源水銀とδ202Hgがより低い陸域水銀を結ぶ線上に収束している点が異なります。このように、これら2つの論文の成果を合わせると、sδ202HgとΔ199Hgのクロスプロットから水銀の起源の違い、ひいては大量絶滅の原因がわかりそうです。今までの研究では、これらの収束は見つかっていませんでした。つまり、大量絶滅の原因究明の手法がひとつ増えたという意義があります。これは、この論文がNature Communicationsに掲載された理由です。今後は、他の3つの主要大量絶滅(ビッグファイブ)時に、このような水銀同位体比の収束が認められるのかを検証していきます。
図1. 岩相、生層序、海洋動物種数、δ¹³Ccarbonateプロファイル、および研究対象セクション間の対比と、それらの古地理学的・古環境学的背景。(a)研究対象セクション(星印)および関連する大規模火成岩区(LIP)の位置を示す全球古地理図。(b)研究対象セクションの推定水深。(c)岩相、コノドント化石帯、海洋動物種数およびδ¹³Ccarbonate曲線を示す層序柱状図。δ¹³Ccarbonateの変動カーブは地域間の対比に使用される。コノドント化石帯名の略号は以下の通り:C. ch. = Clarkina changxingensis、C. me. = C. meishanensis、H. = Hindeodus、I. = Isarcicella。略号:EPTD = ペルム紀末陸上荒廃、EPE = ペルム紀末海洋絶滅、PTB = ペルム紀-三畳紀境界、eTE = 前期三畳紀絶滅。
図2. ペルム紀-三畳紀(P-T)境界にわたる3つの絶滅イベント(EPTD、EPE、eTE)および4つの非イベント区間におけるδ202HgとΔ199Hgの値分布(赤プロット)と相関係数。生物危機イベント(事件)では強い負の相関、非イベント(非事件)区間では相関なし、eTE後には正の相関を示す。赤色四角は各区間における平均値と誤差範囲(各区間の試料データの平均 ± 標準偏差)を示す。EPEが最大の絶滅事件で、相関が最も高い。1 Ma = 100万年前。他の色のプロットは水銀の供給源候補(凡例)の値。
図3. ペルム紀-三畳紀(P-T)境界におけるδ202Hg-Δ199Hgの相関係数と平均Hg/TOCEFとの関係。データは3つの生物危機イベント(EPTD、EPE、eTE)および3つのeTE前の非イベント区間について示す。δ202Hg-Δ199Hgの相関係数と平均Hg/TOCEFとの間の相関係数Rは−0.97である。eTE後に認められる強い正の相関(図2)は、異なる支配メカニズム(泥岩)を反映しているため図には示していない。EFは背景値で割った値。
論文情報
掲載誌:Nature Communications
論文タイトル:Coupled Hg isotope dynamics reveal eruption pulses across the Permian-Triassic mass extinction
著者:Kunio Kaiho, Jeroen E. Sonke, Stephen E. Grasby, Li Tian
DOI:10.1038/s41467-026-74313-4
用語説明
注1. 水銀同位体比値:δ202Hgは質量依存分別の同位体比指標。物理化学的過程(酸化還元、気液平衡、吸着など)における質量の違いに基づいた分離を示す。Δ199Hg は質量非依存分別の同位体比指標:特に光化学反応(光還元や光分解)に敏感に反応し、奇数質量数の同位体(199Hg, 201Hg)に特有の分離を示す。
注2. 火山噴火と高温燃焼と土壌流出:火山噴火は水銀量から、高温燃焼はコロネン量から、土壌流出はジベンゾチオフェン量から推定されています(Kaiho et al., 2000 https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20201109-11270.html)。コロネンとジベンゾチオフェンは芳香族炭化水素です。
注3. シベリアトラップ火山活動:約2億5200万年〜2億5000万年前にシベリアで発生した史上最大規模の火山活動です(図1a)。直径2000 km内の玄武岩と火山砕屑岩(火山灰など)を主とする火山噴出岩の体積は他の主要大量絶滅を起こした火山活動の中で最大です。大量の火山ガスを放出することで地球環境の劇的な変化をもたらし、ペルム紀末の大量絶滅の主要因とされています。玄武岩溶岩よりも火山砕屑岩やマグマの水平貫入岩(シル)の方が絶滅の時間と一致するので、シルによる堆積岩加熱により放出される二酸化硫黄ガスと二酸化炭素が大量絶滅を起こした気候変動の要因として考える説もあります(Kaiho et al.,2000 https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20220113-11903.html)。
注4. 絶滅層準:特定の地質時代に生物が大量絶滅したことを示す、地層中の化石が急激に姿を消す境界のこと。
問い合わせ先
東北大学名誉教授
海保 邦夫(かいほ くにお)
Email:kunio.kaiho.a6[at]tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください
Posted on:2026年7月28日