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地球寒冷化事件の規模増加による動物種と世界人口の減少パターンの違いが明らかに
発表のポイント
● 地球寒冷化を起こす地球環境悪化事件の規模を、大規模隕石衝突と核戦争により成層圏へ放出される煤量、及び大規模火山噴出物量で示しました。
● 動物の絶滅%(絶滅率)が急増する地球環境の閾値(しきいち)(注1)の存在を明らかにしました。一方、世界人口に対して地球環境の閾値は存在しないことを示しました。
● 閾値以下では、動物種の絶滅%はわずかですが、閾値を超えると、10〜20%を超えさらに80%まで増加していきます。
● 世界人口は、地球寒冷化による食料不足のため動物種の絶滅10〜20%の時に約40%の減少になり、その後、80%の減少まで進んでいきます。
概要
5大大量絶滅の原因は、4回が大規模火山活動、1回が小惑星衝突と考えられています。一方、核戦争も衝突と同様に成層圏エアロゾルを発生させ、太陽光遮断による地球寒冷化(核の冬)を引き起こします(図1)。近年、東北大学の海保邦夫名誉教授はこれらを統合的に解析してきました。本研究では、隕石衝突や火山活動の規模と動物絶滅規模の関係に、核戦争による煤エアロゾルの気候モデル結果を加え、環境ストレスと絶滅の関係を示しました。その結果、絶滅%が急増する環境の閾値が存在し、成層圏煤量100~120 Tg、火山噴出物約50万 km³付近であることを明らかにしました。この閾値を超えると、動物種の絶滅%が10〜20%を超え、最大80%に達しました。世界人口には閾値はなく、地球寒冷化による食料不足のため動物種の絶滅10〜20%の時に約40%の減少になり、その後、80%の減少まで進んでいきます。
本研究の成果は、エルゼビア社の新しい国際誌「Evolving Earth」に2月19日に掲載されました。
詳細な説明
研究の背景
顕生代(注2)の生物の5大大量絶滅の原因は、4つが大規模火山活動、1つが小惑星衝突であることを多くの研究者が示してきました。一方、核戦争は小惑星衝突と同じく太陽光を遮断する成層圏エアロゾルを発生して地球寒冷化を起こします。「衝突の冬」と「核の冬」と呼ばれています。これらの総合解析は、近年、東北大学の海保邦夫名誉教授によって先駆的になされてきました。
【参考】Kaiho, 2022a, b, 2023, 2024, 2025; 理学部HP:
https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20220725-12215.html
https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20221124-12371.html
https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20230411-12611.html
https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20240501-13206.html
https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20250514-13747.html
今回の取り組み
今回は、刷新した過去の大規模隕石衝突と大規模火山活動の規模と動物の絶滅規模の関係に、既存の核戦争が放出する煤エアロゾルの気候モデル計算結果を加えて、環境ストレス要因である成層圏煤量・火山活動放出物体積と動物種の絶滅の関係図を作成しました(図2)。その結果、動物の絶滅%が急増化する環境の閾値があり、世界人口には閾値がないことを明らかにしました。動物の絶滅%が急増化する環境の閾値は、成層圏へ放出される煤で100~120 Tg、火山噴出物量でおおよそ50万 km³であることを示しました。成層圏煤量・火山活動放出物体積の閾値を超えると、動物種の絶滅%は急増して10〜20%を超え、80%まで増加していきます。世界人口にはそのような閾値はなく、徐々に増加します。動物種の絶滅%の閾値あたりで世界人口は約40%の減少になり、これらの事件の規模が大きくなると人口損失も80%の減少まで進んでいきます。(これらの仕組みは図1を参照。)
図2a と 2b の横軸は、いずれも環境ストレスの大きさを示しています。本研究では、数十万年以上に及ぶ大陸規模火山活動と、小惑星衝突や核戦争のようなほぼ瞬間的な事象という、継続期間が大きく異なる2つのプロセスについて、環境ストレスの大きさと動物の絶滅規模の関係を比較しました(図2)。時間スケールは対照的であるにもかかわらず、両者は成層圏エアロゾルによる太陽放射の減衰という共通の寒冷化要因を持っています。図2はこれらのプロセスを比較し、両者とも類似した絶滅応答関係をもつことを示しています。いずれの場合も、環境ストレスに対して、絶滅は線形には増加せず、臨界閾値を超えると種レベルの絶滅率が急激に増加します。
大規模火成岩区(LIP)火山活動は数十万年以上継続する場合がありますが、それに伴う絶滅イベントははるかに短い期間で発生しました。顕生代最大の絶滅であるペルム紀末大量絶滅では、大陸規模火山活動は数百年スケールで活発期と静穏期を繰り返していました。その活発期の一つが主要絶滅層準に対応します。南中国などの浅海堆積物のこの層準直下には海洋動物化石が豊富に含まれており、生態系崩壊が急激に生じたことを示唆しています。これらの観察は、寒冷化などを引き起こしたエアロゾル生成が数百年規模で作用したことを示唆します。さらに約6万年後には、より小規模な火山活動の活発化が起こり、主に地球温暖化を引き起こし、比較的小規模な絶滅イベントをもたらしました。
「ビッグファイブ」大量絶滅では、太陽放射を減少させるエアロゾル生成の後、0.06〜0.5百万年以内に火山起源CO₂による温暖化が続き、両段階で絶滅パルスが発生しました(Kaiho, 2025)。最初の寒冷化は火山活動、または白亜紀-古第三紀(K-Pg)境界では小惑星衝突によって引き起こされ、主要な絶滅イベントを生じました(ペルム紀末の寒冷化は未検出)。その後の温暖化段階における絶滅規模は、オルドビス紀末(OS)で最大、ペルム紀末(PT)で中規模、フラニアン-ファメニアン(F-F)、三畳紀-ジュラ紀(T-J)、およびK-Pg境界付近では比較的小規模でした。この繰り返し現れる二段階型絶滅パターンは、多様な地質環境において、エアロゾルによる寒冷化が深刻な生物多様性喪失の主要な引き金であったことの信頼性を支持します。
火山噴火による成層圏へのSO₂注入量を定量化することは、直接観測制約が限られているため依然として困難です。そのため、本研究では火山活動の規模をマグマ体積で代表させました。一方、小惑星衝突や核戦争シナリオでは、成層圏への煤注入量をより直接的に推定できるため、比較に用いました。衝突による硫酸エアロゾルは、硫酸塩に富む蒸発岩地帯に衝突した場合にのみ形成されると考えられ、したがって全球的に一般的な衝突寒冷化機構とは言い難いです(Kaiho and Oshima, 2025)。これらの手法上の違いはシナリオ間比較に不確実性を導入しますが、共通する閾値型絶滅応答の認識には影響しません。
この10年間の気候モデル研究は、約1か月以内の煤注入および約1〜200年間のSO₂成層圏注入が一般に全球的寒冷化を引き起こすことを示しています。この世界平均気温変異と一致して、衝突および火山活動に起因する絶滅シナリオはいずれも閾値型の絶滅応答を示します(図2)。横軸が異なるため直接的な定量比較はできませんが、応答パターンの類似性は地球システムにおける共通の挙動を示しています。
なお、本研究では、海洋動物、陸上四足動物、および人類集団を対象に比較を行いました。同種の生物群に限定することで、生態系間の不均質性の影響を低減し、環境危機に対する絶滅および生存応答をより頑健に評価できます。
今後の展開
本研究は、LIP火山活動、小惑星衝突、核戦争シナリオを統合的かつ学際的に評価し、絶滅閾値および人類飢餓リスクを支配する共通のエアロゾル駆動メカニズムを明らかにしました。地質記録、気候モデリング、生態応答データを統合することで、成層圏エアロゾル負荷の急激な増加が臨界放射強制力閾値を超えると非線形的な生態系崩壊を引き起こすことを示しました。この統合的枠組みは、過去の大量絶滅と将来の全球的破局シナリオを比較するための定量的基盤を提供し、太陽放射の急激な減少とそれに伴う気候変動に対する現代食料システムの脆弱性を示しています。
今後、この研究成果に人為的地球環境変化を加えた総合的研究を行います。今回の研究で明らかにした環境閾値を超えないための対策を提案します。極端加熱イベントに伴うオゾン層破壊の定量モデルは依然として限定的であり、本研究ではオゾン損失を直接的な説明変数として組み込むことはできていません。しかし、オゾン破壊の主要因であるハロゲンガスは、LIP火山活動、小惑星衝突、核戦争によって生成される可能性があります。オゾン破壊は紫外線増加や大気化学フィードバックを通じて生物ストレスを増幅させる可能性があるため、将来的にはオゾン層破壊の定量モデリングを統合し、絶滅規模や生態系崩壊への寄与をより厳密に評価する必要があります。
図1. 大規模火山活動によって生じる硫酸および大規模隕石衝突と核爆発によって生じる煤に起因する全球寒冷化と絶滅のメカニズム。a. 大陸地殻における大規模火成岩区(LIP)火山活動。b. 大規模隕石衝突。c. 核爆発。超巨大火山噴火の場合、SO₂が徐々に硫酸エアロゾルへ変換されることで、約1年間にわたり日射量および地表温度が緩やかに低下する(a)。これに対し、小惑星衝突や核爆発では、煤が成層圏へ注入され、全球に拡散し、数年間にわたり滞留することで、急激に入射太陽放射を大幅に減少させる。その結果、長期的な全球寒冷化、降水量の減少、地表日射量の低下が生じる(b、c)。これらの気候変化は植生崩壊、動物の広範な絶滅、栄養塩流出、土壌侵食、赤潮発生、海洋生物群集の消失を引き起こす。核戦争では、都市爆発によって発生する火災嵐が高密度の煤雲を生成する。煤の量は、プラスチック、アスファルト、生物、ガソリンなどの可燃性物質の局所濃度に依存し、これらは現代都市に豊富に存在する。大規模火災における不完全燃焼は大量の煤を生成し、それが強い熱と上昇気流によって成層圏へ輸送される(c)。対流圏内の煤は地表温暖化を引き起こす可能性がある一方、成層圏に到達した煤は上層大気を加熱しつつ太陽光を遮断し、結果として地表の寒冷化を引き起こす。この日射減少と全球寒冷化のメカニズムは、衝突の冬および核の冬シナリオの基盤を形成し、大規模な生態系崩壊・大量絶滅・人口減少を引き起こす。
図2. 大規模火成岩区(LIP)火山活動、小惑星衝突、および核戦争によって引き起こされると推定される動物の絶滅規模と人類人口減少。a. 小惑星衝突および核戦争シナリオ。陸域、全球、および海面水温の温度異常は、Kaiho and Oshima (2017, 2025) および Kaiho (2022, 2025) に基づく。人類人口減少の推定は、Xia et al. (2021) と Kaiho and Oshima (2017, 2025) の相関関係から算出した。b. 大陸規模火山活動シナリオ。絶滅規模は過去の大量絶滅イベントに基づく。bの図中の人口は、a図の動物の絶滅%と人口減少の関係を基にプロットしたが、a図と異なり長期に渡る事件であるため、破線にしてあるように食料枯渇人口の信頼度は低い。
用語説明
注1. 閾値(しきいち):特定の現象や反応が発生・変化する境界となる値のことです。ある一定の値(ライン)を超えたか否かで、状態や挙動が切り替わる基準点を指します。ここでは、動物の絶滅%が急増する成層圏煤量と火山活動放出物体積の閾値として使用している。
注2. 顕生代:カンブリア紀から始まる約5億4000万年以降の時代。後生動物(多細胞動物)の化石が多産する時代、つまり動物の多様化が起きて以降の時代。
論文情報
掲載誌:Evolving Earth
論文タイトル:Threshold dynamics of mass extinctions and human famine risk
著者:Kunio Kaiho
*責任著者 東北大学名誉教授 海保 邦夫(かいほ くにお)
DOI:10.1016/j.eve.2026.100114
問い合わせ先
東北大学名誉教授
海保 邦夫(かいほ くにお)
Email:kunio.kaiho.a6[at]tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください
Posted on:2026年2月19日